2008年02月17日

契約トラブル その九 退散

タカシとヒロミはいろんな感情が色濃く混ざってしまい、頭の中がグチャグチャになっていた。

なんだこの上司は?

部下の契約の取り方がどれほどずさんだったかわかっているのか?

90万円の値引きで済まそうと言うのか?

そもそも予算の上限をわかっているのか?


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タカシは言葉を探した。
怒りの感情に流されてはいけない。
こちらの混乱で支離滅裂になってはいけない。
ウエダ氏は視線を落としたまま硬直している。
紳士だと思っていただけに、この結果には残念でならない。


タ「シモヤマさん、やはりどうしてもその条件で話し合うわけには行きません。ウエダさんの連れてきたファイナンシャルプランナーが出してくれた資金計画でも、ギリギリの上限だったわけですから、その上限額を超える予算を提示すること自体おかしくないですか?」


商談中、転職したウエダ氏の先輩が保険会社のライフプランを無料でしてくれたのだ。
妻の仕事をあと3年続けたあとに子供を作れば成り立つと言うライフプランを見せてくれていた。
子供はすぐに欲しくなかったので、自分たちとの条件も合うことから何とかなりそうだと判断した。
タカシは続けた。
タ「ウエダさん、ファイナンシャルプランナーの意見でも予算は上限だと言っていましたよね。なんで、150万円もオーバーする予算になるのに平気で持ってこれるんですか?」
ウ「すみません」
タ「おかしくないですか?こちらは予算の上限もそちらのアドバイスで把握していたのに、希望を伝えていたことに対しては”できるできる”と言っておいて、打ち合わせを進めたら"追加です”なんて認められないですよ」
シ「ファイナンシャルプランニングやっていたのか?」
シモヤマは横にいるウエダに小声で訪ねた。
ウ「はい。ソトハラさんに頼んでやってもらっていました。予算的にきついということでしたので、安心してもらおうと思いまして・・・」


タ「会社の知らない対応だったのですか?」
シ「はい、会社は知りませんでした。ファイナンシャルプランニングは内部の人間がするのが普通ですから」
タ「ウエダさんの紹介だからてっきり会社で提携している人なのかと思っていました」
シ「いえ、それは違います」


ウエダは自分の判断が裏目、裏目になっていることに混乱していた。
自分が良かれと思って判断したこと。
自分は確認していたと思っていたことが、全然そうではなかったことを今になって思い知らされていた。
思考がまとまらない。


どこから歯車が合わなくなっていたのだ?


いつからだ?


最初から合っていなかったのか?


自分もお客も狂いに気付かずに走ってきてしまったのか?


タカシとヒロミはウエダの血の気の引いた顔が気の毒で見られなかった。
一生懸命やっていた仕事の姿勢にうそはなかったと思う。
うすうす感じていることがある。
ウエダさんは普段している仕事の他は、知らないことが多いのではないか?
知らないままに、適当な返事を繰り返してきた結果、蓋を開けたら自分たちの認識と全然違うことに気付いた、と。
そんなところだろう。
だからといって150万円も追加を払うつもりはない。
いや、そもそも払えない。
住宅ローンに頼って購入しようとしているのだから。


シ「誠にすみませんが、ご意見を会社に持ち帰って再度検討させていただきたいと思います。今日のところはこれで失礼させていただきます」
タ「そうですね。今日の条件で歩み寄って欲しいと言うことでしたら、今日のところは平行線になるでしょう」
シ「わかりました。会社には必ずご意見をお伝えしますので、再度話しあって解決したいと思います」
タ「条件はお話したとおりです。資金的に限度を超えない金額で持ってきていただけないと、こちらは了解できませんよ」
シ「それも含めて話し合ってきます」
タ「よろしくお願いしますね」


シモヤマとウエダは退散した。
帰社の道中、シモヤマからはウエダの責任を追及する言葉を聞かされた。
ウエダは内心思った。
(お前に報告はしていたぞ・・・今さら全部人のせいかよ・・・シャレにならないって)
この上司のやることだ。
責任を全部自分に押し付けてもおかしくない。


倦怠感と不安、猛烈な疲労感。
サラウンドで押し寄せるマイナスエネルギーの強さにウエダは巻き込まれていった。


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