2008年02月21日

契約トラブル その拾弐 

タカシは弁護士の無料相談の順番を待っていた。

市が月に2回行っているのは知っていたが、利用するのは今回が初めてだ。

ちょうど一枠開いているところに予約を入れることができたのは幸運だった。

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見たところ50才くらいだろうか。
メガネをかけた、中肉中背の弁護士はスガワラと名乗った。
神経質な光をたたえた目は、こちらの隅々まで観察しているような印象さえある。
職業柄なんだろうが、ちょっと苦手だなと感じた。


スガワラ「ご相談内容は、契約のトラブルということですね」
タカシ「はい、そうです。住宅の契約後に、聞かされていなかった追加金額を提示されました。
契約前にできると聞いていたものですから、追加を想定していなかったのでトラブルになっています」
ス「なるほど。たまに聞くトラブルですね。営業マンのオーバートークを証明できる証拠があればいいのですが・・・手元にそういうものはないでしょう?」
タ「そうなんです。そういうものはなくて、あくまでも口頭での説明だったのです」
ス「立証が難しいとなると、裁判にしても勝ち目は薄いでしょうから、最初から紛争処理、もしくは調停を前提とした交渉になりますね。
建設会社は自分たちの非は認めているのですか?」
タ「認めてはいるのですが、追加工事の一部をこちらにも負担して欲しいと言って来ています」
ス「不当な追加金額と認識されているんですよね」
タ「そうですね。払えといわれてもお金がないから払えない位の金額です」
タカシはスガワラに経緯の概略を説明した。


ス「営業マンも予想していなかった感じですか?」
タ「そうですね。本当なのか演技なのかわからないけれど。悪意はなかったと信じたいです」
ス「どんな結果になることを希望していますか?」
タ「部長という人に会うまでは、こちらの追加がなければそのまま行こうと思っていたんですけど・・・」
ス「ということはなにかあったのですか?」
タ「一連の向こうの対応を見ていましたら、謝罪の気持ちも伝わってこないし、駆け引きもとても強いんです。本当に信頼してよいのかどうかわからなくなってきました」
ス「それは追加金の発生がなくなってもその会社で建築したいと思わなくなってしまったということでしょうか」
タ「そうなんです。そんな風に感じてしまうようになっちゃったんですよ。自分でもどうして良いのかわからなくなってきています」


ス「単純ではないのですね。結論からお伝えしておきますと、調停目的で裁判に訴えるか、紛争処理センターに持ち込んで審判してもらうか。法的にはこの二つの方法が考えられます」
タ「裁判を起こした場合、どのくらいの確率で勝てますか?」
ス「それは答えようがありませんね。損害が出ていませんから、差額を認めない裁判になったとしても弁護士に対する報酬も必要です。裁判を起こすには条件が揃っていないと思います」
タ「なるほど」
ス「調停にしても、紛争処理にしても第三者が必ずしもあなたの望む判定をするとは限りません。
万が一、追加金額をあなたが払わなければならないという判定が下された場合、あなたはそれにしたがわなければなりません」
タ「そうですね。必ずしも勝てるとは限りませんよね」
ス「それをわかってくださるだけで、次の行動が決まってくると思います」


タ「といいますと・・・?」
ス「契約書には互いに信義を守り・・・とありますから、それを違反したことを理由に契約の解除を求めることができるでしょう」
タ「契約を破棄するんですね、その場合、契約金は戻ってきますか?」
ス「それを条件に解除すれば戻ってきます。ただし、直接の交渉で相手が同意してくれなかった場合、そちらの問題で調停が入ったり、紛争処理の扱いになったりする可能性があります」
タ「どちらにしても第三者の判定が絡む可能性はあるし、その場合、こちらの主張が必ずしも通るとは限らないということですね」
ス「そうです。その通りです」
タ「わかりました。スガワラ先生、私のようなケースの場合は、解約を希望するのがよいのでしょうか?」
ス「信頼関係も失われているということでしたら、一度仕切りなおしして、新たなパートナーを見つけるのもひとつの方法でしょうね」


タ「もしも先生に解約のお手伝いをお願いしたらどのくらいの金額が必要ですか?」
ス「私の名前で書面で通知します。契約解除の申し入れとかなんとか、そういう名前の書類を作ります。解約条件もそこに全部付記されます。
弁護士の名前で契約解除が届けられたら、まず相手は引くでしょうから。
そうした手続きで済めば10万円程度で結構です。
相手がそれで引かずに訴訟にまで行きましたら、着手金として20万円その時点で必要です。
解決までの時間と作業量に応じた請求金額が発生することになります」
タ「それは困るんですよね」
ス「争う以上はその可能性も念頭において対応することになります」
タ「なんだか面倒で嫌ですね」
ス「そうなんです。だからできれば話し合いで解決できるのがベストです。ただし相手も人気商売といいますか、信頼にキズが付くことをおそれますから、裁判になるような事故は避けたいはずなんです。
こちらがつけ込むとすればそこでしょうね。
嫌だったら、これで手打ちにしましょうよ、と交渉することはできると思います」
タ「なるほど、帰りまして妻とも相談します」
ス「そうですね。よく話し合ってください」


タカシは市役所を後にした。
なるほど契約解除は気が付かなかった。
もしそれで仕切りなおすことができるのであれば、良いパートナー選びから再出発できるかもしれない。
そうすれば、赤字工事の負担をしなくて済むから、会社にとっても良いはずだ。
ここに来てナカタの「赤字工事発言」が裏目に出ていた。
請ければ赤字なら、解約に同意してくれるだろう。
タカシは帰り道、この理屈を何回も頭の中で繰り返しまとめていった。


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タカシさん 頑張れ!

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