2008年05月14日

選択

男が家に帰った時、家族がいないことに気づいた。
心当たりに連絡したが、皆知らないという。
裏目裏目と出続けて、とうとうひとりになってしまったことを知った。
むしゃくしゃして飲み屋に行ったが溜まったツケが払えないなら飲ませないと追い出された・・・


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男は行く当ても無く、夜の街を歩いていた。
腹も減っている。
一応スーツは着ているが、ズボンの折れ目もなくなって久しい。
垢じみた襟元は、それを見た人の視線をそらせるほど惨めさを感じさせた。


(こんなはずじゃなかった・・・)


すべてうまく行くはずだった。
自分の考えが間違っていたとは思わない。
誰にとっても利益になる考えなのだから。
(俺の考えがわからないなんて、バカばかりだ)
思いつく言葉は恨み節ばかり。
他人を愚かと決めつけ、ひとりよがりの妄想で、自分の勝利を確信していたのだ。


ところが今日、最悪の事件が起きた。
男が家に帰ったら、家族がいない。
良く考えるとそうなって当たり前だ。
借金は膨らむ一方。
女房とは毎日ケンカ。
親も病気で倒れ、信頼していた友達からも裏切られた。
自分を慕うのは唯一小さな子供だけ。
その子供さえ、なじり合う親の姿を見せて悲しませてしまった。


(俺は悪くない)


歩きながらもずっと、頭の中で周りの人間を責め続けていた。
ふとその時、声をかけられた。
「人のせいにしているうちは、何事もよくならないですよ」
突然声をかけられビックリした。
瞬時にその言葉が自分に向けられていたこととわかった。


「わたしのことですか?」
驚きを隠しつつ、声の主に目を向けた。
その紳士はどこにでもいそうな平凡な容姿だった。
平凡な顔つき。
印象に残りづらい目つき。
鼻筋が通っているわけでもなく、つぶれているわけでもない。
口元も微笑んでいるわけでもなく、への字でもないし、大きくも小さくもない。
髪型は七三に分けられているが、いやらしいほど型にはめてはいない。
再びあっても思い出せるかどうかわからない。
なにもかも平凡な印象だ。


「そうです。あなたのことですよ」


なんで声をかけられたのかはわからないが、不思議と敵意や悪意を感じない。
とても自然で、昔から知っているような感じさえする。
しかし、今まで会ったどの人間とも違う雰囲気を持っている。
見かけこそ平凡だが、得たいが知れない。
職業や家庭のことが、見た目からはまったく読み取れない。
公務員にもサラリーマンにも教師にも医者にも見ることができる。
いろんな人種に会って来ているが、こんな雰囲気の人間は初めてだ。
それだけはわかった。


「あなたの役に立ちたい。私を信用してくれますか?」


その男の言葉を飲み込むまで少し時間がかかった。


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気になります。

  • こうちゃん
  • 2008年05月14日 22:55
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