2008年05月16日
選択 Ⅲ
「本当のこと」とはなんなのか・・・
周りのことも、時間のことも忘れて知りたい欲求に駆られた。
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「その前にあなたは私を信頼していますか?」
「会ってすぐに信頼なんてできないよ。あなたの答えを聞いてから判断する」
「それではあなたは本当のことを知ることができませんよ」
「なぜですか?教えてくれたらいいじゃないですか」
「私のことを信頼していないのに、内容を聞いても真実だとは思えないでしょう」
(なるほど。一理ある。)
そう思ったが、さっき出会ったばかりなのに信頼しろと言われてもどうしてよいものか。
そもそも「本当のこと」とはなんなのだ?
「お前のここが悪い」と説教されておしまいになるのではないか?
「このアイテムを身につけると、幸運がやってくる」という霊感商法かも?
頭の中は思いつく限りのリスクを探し始めていた。
しかし、どれもそうかもしれないし、全然違うような気もする。
とにかく、こんな男に会ったのは初めてだ。
得体がしれないが、悪い感じも善い感じもしない。
わからないのだ。
悪く思えばそのようにも見える。
善く思えばそのようにも見える。
考えても結論がすぐに出そうにもない。
少なくとも悪い人間には見えない。
多分そうだろうと思う。
しかし、本当に善い人間かどうかについてはわからない。
初対面のその男が、信頼していなければ「本当のこと」を言っても意味がないという。
余計わからなくなってきた。
「本当のことを知ることで、金も幸せも自由になると言いましたよね」
「その通りです」
「どのくらいの時間がかかるのですか?」
「それはあなた次第です」
「そんな人任せの答えじゃわからない。少なくともどの位かかるか目安があるでしょう」
「忍耐が必要です。今日取り組んで明日結論が得られる問題ではないのです」
「本当に知ることで全て思い通りになるんですか?」
「今あなたが望んでいることが何かはわからないが、知った時に望んでいることは思い通りになるでしょう」
「僕は今困っているんです。そんな気の長い話をしている余裕はないんですよ」
「あなたがまいた種が今実っただけの話です。二度と悪い実りを望まないのであれば、今からまく種を変えなければなりません」
「種って何ですか?」
「あなたの思いや言葉や行為です」
「それがなんだって言うんだ。誰だって金が欲しいし、人よりもよい生活がしたい。それが悪いって言うのか?」
「私は判定しません。宇宙にはそれらのエネルギーに対して、機械的に反射する仕組みがあります」
「エネルギーとか、反射とか、言っている意味がさっぱりわからないんだけど」
「思い、言葉、行為の積み重ねが、形になって現れる仕組みがあるんです」
イライラしてきた。
平凡な男の回答はあまりにもスムーズだ。
言葉には透明感がある。
ウソをついている響きは感じられない。
肯定しても否定してもかまわないよ、と感じているに違いない。
そもそも、なんで自分に話しかけてきたんだ?
役に立ちたいとか言っていたけど、絶対に裏があるはずだ。
根拠はないが、感情に支配され始めた男は、平凡な男を疑い始めた。
「そうかい。わかった。説教をしたいのはよくわかった」
「そんなつもりはありません。ただ、あなたの役に立ちたいのです」
「頼まれもしないのに、あんたどう考えても怪しいよ。そもそもなんで声をかけたんだ?」
「私を呼んだのはあなたですよ」
「俺はあんたなんか呼んでいない!」
「いいえ。あなたは確かに私を呼びました」
「ふざけるな!からかうのもいい加減にしろ!いつ誰がお前を呼んだって言うんだ!?」
「あなたが、誰か何とかしてくれ!何でこうなってしまったのか教えろ!と思いませんでしたか?」
フラフラ歩きながら、いろんな人間を呪いつつ、確かにそう思っていたかもしれない。
だからと言って、理解できる話ではない。
なんで突然こんな風に現れるんだ?
「あんた一体何者なんだ?」
「それはあなたが判断すればいい。ただ、あなたが望みを叶える為に知らなければいけないことを伝えに来た。私を信頼し求めるのであれば伝えるし、望まないのであれば伝えない。あなたが決めればよい」
「名前は?」
「いろんな呼び名で呼ばれているので、自分からは名乗らない。好きに呼んでくれればいい」
訳がわからないまま、男は平凡な男から視線をそらせなくなっていた。
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