2008年05月18日

選択 Ⅴ

帰り道、さっきの問答を何度も頭の中で繰り返していた。

初めて聞いた話ばかりだ。


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(種をまいたから実が実るとか言っていたな・・・)
原因と結果は確かにそうだろう。
でも、わが身に置き換えてそういうことを考えたことは無かった。
成功を目指して努力しているつもりだったのだ。
自分は「本当のこと」が知りたいのか?
自分の目指す成功を手に入れたいとは思っていたが、宇宙の仕組みとか、本当に価値ある知識を知りたかったのかと聞かれれば、そうではなかったと思う。
たまたまさっきは心の叫びになったのかもしれないが、根本的には自分の願いが叶うことを望んでいたはずだ。


(そうだよ。俺の願いを叶えてくれるんだったら誰でも良かったんだ)


最初は確かにそう思っていた自分がいた。
自分の事を見つめていることにも気づかずに、男は自分が何を望んでいたのか追求していた。


(そもそも何を望んでいたんだ?)


経済的な成功。
自分のしたいことをやりたい時にできる生活。
家族にも良い思いをさせてやりたい。
そんな願いを持っていた。


(思ったから現れたと言っていたな・・・願いを叶えてくれと思っても現れるのか?)


「真剣に思わなければダメだと言っていたな・・・」
思いは独り言に変わっていた。
やがて男は意識を集中し真剣に思い始めた。
(願いを叶えて欲しい・・・)
何度も何度も思い続けた。
いつの間にか足は止まり、人目も気にせず目を閉じて思い続けていた。
どの位時間が経ったかもわからない。


やがて思い続けることができなくなってきた。
集中力が無くなったことに気づいて思うことをやめた。
もう、なくすものも無くなっていた男は、純粋にその願いだけを思い続けていた。
思い終えてかすかな充実感さえ感じていた。
(バカバカしい・・・こんなんでなにか起こっていたら困ってなんかいないさ)
再び男は歩き始めた。


目の前に人影が見えた。
こちらに向かって立っている。
街灯の手前に立っていて、少し逆光気味で顔が見えづらい。
近づいていくと顔が見えた。


!!!


さっき分かれた平凡な男が立っている。


男は足を止めない。
だんだん近づいてきた。
微妙な違和感を感じた。
確かに思い続けた時間はあったけど、なぜ、先回りして平凡な男がここにいる?
5メートル・・・3メートル・・・1.5メートルでとまった。


「また会いましたね」
こちらから声をかけた。
さっきと同じ目。
同じ耳。
同じ口、鼻・・・着ているものも同じだ。
同一人物だと確信していた。
なにもかも平凡に見える。


「こんばんは。はじめまして」


男の挨拶に驚いた。
(!! はじめまして!?さっき会ったばかりじゃないか!?)
男は混乱した。
何もかもさっきと同じ様に見える男は「はじめて」だと言ったのである。


「はじめまして?さっき会ったばかりじゃないか?」
「いえ、あなたと会うのは初めてですよ」
「何がなんだかさっぱりわからない・・・俺が望んだから現れたんじゃないのか?」
「その通りです。あなたは真剣に思って私を呼んだ」
「あんたの名前は?」
「好きに呼んでくれていい。私を呼んだ人間はみんな好きな名で呼ぶ」


言っていることまで一緒だ。
でもこの男から伝わってくる高揚感はなんだ?
さっきの男は平凡な外見で、淡々としていた。
存在感がないといってもよいかもしれない。
とらえどころがなかったのだ。
しかし、目の前にいる男は外見こそ完全に相似しているが、伝わってくる印象が違う。
なにか、ドキドキする期待感がある。
声も似たような声なのに、なぜこうも違うのだ?


「あんたは俺の望みを叶えてくれるのか?」
「あなた次第だが、そういうことになるかもしれない」
「どうすれば俺の願いを叶えてくれるんだい」
「願いを叶える仕組みを知らなければいけない。そして、そのためには犠牲が必要だ」
「願いが叶うんだったら、多少の犠牲はしょうがないさ。教えてくれ。どうすればいい?」
「あなたの願いを私が先に叶えよう。叶えてから犠牲になるものを差し出せばいい」
「怖い話だなぁ。何を差し出せばいいんだい?」
「それは叶えた願いによっても変わる。代価に見合った犠牲が必要だよ」


それにしても、この男の一言はなぜこれほど期待感を感じさせるのだ?
知らず知らず、興奮している自分に気づいた。
これはいけるんじゃないか?と思えてくる。
見た目はさっきの平凡な男と一緒なのに、これほど印象が違うのはなぜだ?
平凡な男はどこか手ごたえのない男だった。
スカスカしたというか、変な透明感があった。
しかし、この男は違う。
期待感があり、欲求に火をつけるエネルギーを持っている。
期待させる男と呼んでいいだろう。
顔や容姿はどこから見ても平凡なのに、なぜこれほど期待感を感じさせるのか?
平凡な男といい、期待させる男といい、今日はなんと不思議な日なんだろう。


「先に願いを叶えてくれるというのか?」
「そうだ。あなたの願いを叶えてあげよう」
「どんな願いでもか?」
「そうだ。それに見合う代償として犠牲は発生するが」
「どんな犠牲を払えばよいのだ?」
「それはあなた次第だ。何を望んでいるかによって変わる。先に知ることはできない」
「本当に願いを叶えてくれるのか?」
「それは約束する」
「なんでそんな約束ができるんだ?」
「理由は言わない。叶ったかどうかを決めるのはあなただ。フェアな関係だと思わないですか?」
「叶えば代償がいる。叶わなければいらない。そういう意味でいいのかい?」
「その通りです。なにも不公平はない」
「もしもこの願いが叶えば、こういう犠牲が必要だっていうのは教えてくれるのかい?」
「それは無理だ。私の利用する仕組みは”もしも”で説明することはできない」


まただ。
コイツもウソを言っていない。
虚飾も力みもない。
真実を淡々と説明する独特の響きを持っている。
しかも、多分本当だ。
コイツに願えば望みが叶うだろう。
ただならぬ期待感を感じる。
いや、話をしているとこみ上げてくる。


「少し考えてもいいか?」
「好きにするといい。私と会いたいなら望めばよい。いつでもここにいる」
「そうか。そういうもんなんだな」
「思いが全てだ。思うことが願いを叶える基本になる。それにふさわしい犠牲は必要になる」
「覚えておくよ。考えさせてくれ」
「必要があれば呼べばいい」
「あぁ、わかっているよ。じゃあまた」


期待させる男の横を通り抜けた。
まったくなんという日だろう。
外見はまったく同じのどこにでもいそうな男。
ところがいうことは違う。
「本当のことを知りたいか」という男と「願いを叶えるが代償が必要だ」という男。
金のことなんかすっかり忘れて、男は家路の途中、交わした問答をずっと繰り返していた。


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コメント

あなたと会うのは初めてですよ が印象に残りました。

  • こうちゃん
  • 2008年05月18日 22:57

自分で書いていて、自分では考えていないような不思議な感覚です。
どうなっちゃうんでしょう?

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