2008年05月19日

選択 Ⅵ

誰もいない家に戻った。

かろうじて水道と電気は止められていない。

水を一杯飲み干して、ソファに座った。


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こんなことが有り得るのか?


平凡な男と、期待させる男を思い出していた。
見た目はそっくり同じ。
着ている物さえ一緒だったと思う。
しかし、顔を思い出そうとしてみても、どうもうまく思い出せない。
特徴があるようでないのだ。
どんな顔をしていたのか、平凡な印象以外は思い出せない。


本当のことを知りたいのか・・・
自分の願いを叶えたいのか・・・


自分はどちらを望んでいるんだろう。
訳がわからなくなっていた。


本当のことを知れば、苦しむことはないと平凡な男は言った。
願いを叶えるためには、それにふさわしい代償が必要だと期待させる男は言った。
どちらも本当のことのように思える。


本当のことを知りたいのであれば、信頼しなければならない。
その条件を満たすことができれば、知ることができる。
でもその先にいかなければ理解できないと言っていた。
イメージしてみる。
本当にそんな状態が得られるのだろうか?
そもそも信頼ってなんだ?


・・・・・・


俺は人から信頼されていただろうか?


・・・・・・


されていなかったかもしれない。
自分の意見の正しさばかりを信じていたのではなかったのか?
そんなことが思い浮かぶ。


私を信頼しなければ、伝えても意味がない・・・


平凡な男の言葉は真実だ。
確かにそうだ。
政治家のスピーチを思い出せばそれが良くわかる。
どの政治家のスピーチも、それなりに評価できるものばかりだ。
市民のことを考えて、よく検討された案をまとめている。
しかし、それが信じられないのは、政治家本人に対する評価だ。
顔や言葉遣い、身振り、服装。
五感を通して、点数をつけている。
点数が低ければ信頼なんてしない。
その結果、本人を信頼できなければ、政策も信頼できない。
単純な理屈だ。


期待させる男と向かい合っているだけで、なぜアレほどの期待感が湧くのか不思議だった。
理屈じゃない。
心に直接反応させるようなエネルギーがあるのか?
当たり前のように野心と期待感が溢れてくるような感覚だ。
外見は同じなのに、なぜこうも印象が違うのか理解できなかった。


平凡な男は、妙に意識を自分の内面に向けさせられた。
考えたこともなかったことについて考えさせられる。
しかし、何も約束はしない。
「お前にやる気があれば手に入ることもあるだろう」と言われたようにさえ感じる。
与えることは厭わないが、その後は俺次第だということはわかった。


期待させる男は、自分の求めている願いを叶えると断言した。
願いにふさわしい代償が必要だという。
労働にしろ、アイデアにしろ、代価、代償があるからこそ提供する。
逆に言えば、見返りがあるからがんばる。
人間なんてそんなものだ。
しかし不気味なのが、ふさわしい代償とはどんなものを要求されるのだろう?
底知れない不気味さがある。
まるで物語に出てくる悪魔みたいじゃないか・・・


悪魔・・・?


妙に引っかかった。
平凡な男は何も求めていない。
あえていうなら、俺の幸せの役に立ちたいと言っていた。
期待させる男は、願いを叶えたら代償をよこせという。
見返りが必要だと言っているのだ。
与えるだけと見返りを求めるのと。
悪魔であれば見返りは求めるだろう。


俺は今まで見返りを求めないでなにかしたことなんかなかったかもしれない・・・


自分は過去、全てにおいて、見返りを期待していた。
贈り物をしても、必ず帰ってくることを期待していた。
表面的には気を遣うなとか言っていたが、必ずリターンを期待する心がどこかにあった。
そんな人生を歩んできていた。
だから、そんなものだろうと思っている。
自分だけではなく、世の中の人間は見返りがあるから仕事をする。
与えるだけでは、生活さえしていけない。
悪いことをしている訳でもない。
当たり前のことじゃないか。


どうやって考えたらよいのかわからない。
平凡な男の言葉を信じるなら、ゴールの見えない真実探求の道に向かうことができるかもしれない。
しかし、到達するとは限らない、と言っている。
淡々と何の見返りもなく語ってくる口調は過去に体験したことがない。
「本当のこと」とはなんなのか?
無性に知りたいと感じてしまう。
相手の策略なのかと疑ってみてもわからない。


いろいろと考えてみたが結論は出なかった。
自分が望んでいるもの。
どちらも望んでいるような気がする。
しかし、最終的には両立しない問題。
矛盾する希望を、自分が持っているということか・・・


そういえば昔、どちらの干草を食べるか迷っていた馬の話があったっけ。
二つに分けてある干草の山を前に、結局どちらも食べずに飢えて死んじゃうだったよな。
早く決めなければならないだろう。
経済的に自分に残されている時間はほとんどない。
願いを叶えたいのか。
真実を知りたいのか。


真実を知りたい。
本当のことを知りたいと、期待させる男に願ったらどうなるのだろう・・・?


真実を知った上で願いがいくらでも叶うのであれば、そちらの方が合理的ではないのか?


男の頭の中は打算が渦を巻いていた。
時間が立つのも忘れて、男は夢中になって自分が本当はどちらを望んでいるのか追求し始めた。


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コメント

次が気になります~

  • こうちゃん
  • 2008年05月20日 23:14
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