2008年05月26日

選択 Ⅹ

「その質問に答える前に、あなたに聞きたいことがあります」
覚悟があるかと聞かれて、答えに窮し、期待させる男が突然気になったのだ。

「昨日、あなたと別れた後、あなたとソックリな男と会いました。あなたと無関係とは思えませんが、初めて会ったと言われたのであなたではないと思います。その人は、必ず願いを叶えるから、叶えた後に願いにふさわしい代償を差し出せと言っています。本当のことも知りたいし、願いも叶えたい・・・私はどうしたら良いのでしょうか?」


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「私とソックリだったんですね」
平凡な男は確認した。
「はい。見た感じは顔も姿も着ているものも全てあなたと同じです。見分けはつきません。ただ、話した印象が全然違うんです。あなたとの話は自分の内面に気づかされますが、その男と話していると、欲望が湧き上がって来て、それが手に入る実感を感じて頭がのぼせそうになります。あまりにも印象が違うので、あなたのことを”平凡な男”、もう一人を”期待させる男”と呼び分けていました」
男は本来なら失礼な言い回しであるにも関わらず、事実を感じたままに平凡な男に伝えた。
平凡な男は小さくうなずいていた。


「あなたはどちらかを選ばなければなりません」
「願いを叶えたいのか、本当のことを知りたいのか、をですか?」
「そうです。それらは両立しません。どちらを選ぶのもあなたの自由」
「どちらが正しいのか自分にはわかりません。どちらが一体正しい選択なのでしょうか?」
「あなたがどちらの役割を選ぶか決めればよいだけの話です。あなたが選んだ役割にふさわしい結果を得ることができるでしょう」
「どんな結果になるんでしょうか?」
「それはあなたの行為によります。今から決まったものではありません。これからの行為によって変わってくるのです」


「その結果を先に知ることはできないのでしょうか?」
「それを知るための条件をあなたは満たしていません。満たせば知ることができるけれど今は無理ですね」
「そんなことができるんですか?」
「できます」
「なぜ、そんなことまで断言できるのでしょうか?今までにこんな話は聞いたことがありません」
「できるものはできると言わざるを得ません。あなたの可知不可知に関わらず事実なのです」


「あなたは何者なんですか?神様ですか?」
「私をそのように呼ぶ者もいるが正しくはありません。私自身も役割を持っている一つの存在に過ぎないのです」
「あなたの役割とは一体どんな役割なのですか?」
「あなたたちの世界でわかりやすく例えると門番のようなものです」
「門番ですか?」
「この世界で一番価値のある宝物が眠っている宝物庫の門番で鍵を預かっています」
「この世で一番価値がある宝物・・・それは間違いないのですか?」
「間違いありません。私は主から条件を満たす者が現れた時のみ、宝物を見せても良いと鍵を預かっているのです」
「それはどんな宝物なのですか?」
「あなたはその宝物に触れることによって本当のことを知ることができます」


おぼろげだった謎が少しだけ全体像が見えてきた気がした。
そういうことなら、平凡な男の言うことが少しだけわかる。
しかし、平凡な男は単なる従者で主は別だという。
主とは誰なのだ?
そして、期待させる男との関係は?
ひとつ解けたと思えば、また、いくつもの疑問が持ち上がってくる。
周辺の話は後回しだ。
どうすれば宝物を見ることができるのだろうか?
その一点に質問を集中させたかった。


「どうすればその宝物を見るための条件を満たすことができるんですか?」
「宇宙の法則に沿った生き方をすればよい」
「先に宝物を見せてもらうことができれば、法則に沿った生き方ができると思うのですが・・・」
「それは天地の理に反するのです。今のあなたの言葉が意味することはこうです。宝物を見せてくれたら門番の言うことを信じてあげる。だから先に宝物を見せなさない、ということです。それでは宝物を見せることはできない。あなたが門番であったなら、どのような者に宝物を見せたいと思うか考えてみるがいい」


返す言葉が出てこない。
どうやって答えていいのかもわからない。
自分が門番だったら・・・
賄賂かなんかもらったら簡単に見せてしまいそうだ。
ちょっとだけならと、かわいそうに思った相手に同情的に見せてしまうかもしれない。
多分、そんな理由で簡単に見せてしまってはダメなのだろう。
そう考えると正しい答えの想像がつかない。


「あなたが門番だったら、自分の事を信じない人に、至高の宝物を見せるだろうか?」


胸をぐさりと貫かれた。
信じるとか信じないという感覚がなかったのだ。
”あなたは私を信じていない”と言われたのと同じだ。
平凡な男は続けた。


「門番は、宝物庫の中に何があるのか知っているのです。
それは偽りなく、この世で最高の存在、本当のことを知ることができる唯一の体験です。
あなたのどんな知識も通用しないし、どんな経験を持ってしても説明できない体験をするでしょう。
錯覚でも幻覚でもなく、この世の真実を体験することができます。
真実を体験し、この世の意味を知ることになります。
本当のことの意味がその時にはじめてわかるでしょう。
あなたが望めば全知も得るでしょうし、この世の財を全て手に入れることもできるでしょう。
しかし、一切を望まなくなるかもしれません。
どちらにしても変わらないことは、あなたを苦しませるものはこの世には存在しません。
完全な幸せを体験し、肉体が滅ぶまでその状態は続きます」


知りたいことは何でも知ることができる。
財産も思うままになる。
しかし、それを望まなくなるかもしれない。
そんなことがありえるのかどうか、自分にはわからない。
平凡な男の言っている意味がわからない。
それのどこが幸せだというのだ?
苦しみがなくなるというのだ?
イメージしようとしてみるが、何を想像しても全然違うような気がする。


「あなたは宝物に触れたいのか、願いを叶えたいのか選ばなければいけない」
「宝物とはなんなのですか?金品や宝石とは違うんですよね」
「わかりやすく言ったつもりなのだが・・・本当のことを知ればすべてがわかります」
「わかりました。あなたに信じてもらうためには、自分から先にあなたの言うことを信じなければならないこともわかりました」
「そうですか。ではどうしますか?あなたはどちらを選ぶのですか?」


「結果がわからないことを選ぶのが怖いのです。だまされるかもしれない・・・自分にとって好ましくない結果になるかもしれないことを考えると怖いのです」
「信じた結果、自分にとって好ましくないことになるのではないかという恐怖心があるんですね」
「その通りです。あなたのを信じることについて保証が欲しいのです」
「保証はありません。あなたの行為にふさわしい結果が現れるだけで、私は何も約束することができません」
「この世の中には人を信じて、悲惨な結末を迎えた人たちがたくさんいます。過去の記憶が自分にもそういうことが起こりえるかもしれないとブレーキをかけるのです」
「それがつまずきであり、障害であるのです。私はあなたから何も奪うことはしない。ただ真実を伝える役目に徹しているのです。虚飾もなければ謙遜もありません。ただ事実としてあなたに真実を伝えることしか私には許されていないのです」
「それがあなたの役割なのですか?」
「そうです。あなたに伝えること。求める者に真実を伝えることが私の役割です。あなたが信じようと信じまいと私の役割は変わりません。私の使命としてそれをこなすことしかできないのです」


平凡な男の言っている意味が出来るようになってきた。
そうか・・・だから、この人の言うことに偽りを感じないのか・・・
しかし、自分の中に平凡な男を信じようとするのに反発するエネルギーが存在する。
そのエネルギーが「待て、簡単に信用するな」と反応しているのだ。
だから否定的に考えて、素直な一歩を踏み出せない。
自分の知っている知識でこの状況をなんとか理解しようと試みるがうまくいかない。
そういう次元ではない問題に直面していると感じる。
打算や駆け引きの一切が通用しない始めての相手。
どんな買収にも利益にも関心のないはじめての相手。
心の中を見通され、本音が丸はだかになってしまう初めての相手。


平凡な男を形容するとそんな風に表現できる。
相手に通じるかどうかわからない自分の本心で対応するしかない初めての経験。
一体何者なのか知らないが・・・自分の経験していることは、人類多しといえどもそうそう他にはいないと思う。
誰にも相談できない選択。
それを突きつけられて、男は沈黙せざるを得なかった。
頭のどこかで、損得をはじき出す活動をしているのがわかった。
恥ずかしく感じる思いもあったが、それはそのままにしておいた。
自分の本心は願いを叶えたいのか。
それとも本当のことを知りたいのか。
結論を出す場にいることを男は感じた。


・・・・・・


数瞬の沈黙が続き・・・


男の出した答えは・・・


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コメント

どうなっていくのでしょ~

  • こうちゃん
  • 2008年05月27日 01:17
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